さて、ヤジが出現する背景には、議会での議論の方法に問題があるといえます。通常の会話や会議では、関わる人が入れ替わり発言するものです。しかし、議会は違います。議長(または委員長)の許可がないと発言できません。許可された人しか発言しないので、発言内容が首長に向けられることがほとんどのこれまでの傾向からすると、議員-首長という議論しか行われないことになるのです。とくに一般質問(や代表質問)では、形式的にも執行機関向けになってしまい、1対1の発言になります。そこで、明らかに間違った質問や不十分な答弁があった場合、どう関与するのかという問題が発生します。「議長に対して議事進行の動議を出し許可を得て発言する」という方法が正規の手続きです。しかし、これをいちいちやっていては逆にやり取りを妨害することにもなりかねません。
そこでヤジの登場です。
「わが国の失業者数360人だが、わが市の雇用情勢はどうか?」(ヤジ 「360人しかいないの?」)
「すいません、360万人です、訂正します」
ということになります。この場合のヤジは、助言です。
「市長は業者からどのような接待を受けたのか」(ヤジ お前だって清廉潔白じゃないだろう、昨日、どこぞの店に入っていくの、見たんだぞ)
これは、事実だとしても私生活を暴露する問題あるヤジです。また、通常、意見が合わない議員同士でも、発言が妥当だなと思った場合、
(ヤジ もと看護士さんが言うのだから間違いないだろ、がんばれ)
(ヤジ そのとおりだ、市長しっかり答えろ)
というような場合もあります。これは激励のヤジといえるでしょう。
ある議会で本当にあった話だそうです。賛成討論中(中身はほとんど反対)、S党の長老議員が「何なんだ、こんな議会、やってられるか」とヤジを飛ばし議場から出て行きました。そののち長老議員は議場入り口から議場に向かって手招きをしたといいます。するとJ党やK党の議員がぞろぞろ出て行ったというのです。どうやらそのヤジは発言者に向けられたのでなく、議長に対して揺さぶりをかけるためのものだったようです。半分くらいの議員が出て行った後、議長は休憩を取りました。議長は発言者を議長室に呼び「発言をやめてもらえないか」というのです。発言者の議員が「できない」というと、議長は長老におうかがいを立てたようで、「内容を少し変えてくれればいいから」と。仕方がないので、さきほど発言した討論原稿の前半部分と後半部分を入れ替えて渡したそうです。ほどなく議長は戻ってきて「これで、いいそうだ」と安心した表情でだったそうです。内容はまったく変わっていません。○○△△ を△△○○と言い換えただけにもかかわらず、です。
このように、ヤジは発言者だけに向けられていない場合もあるということなのです。しかし、こんな駆け引きは、一般の傍聴者にとって、何が起こっているかわからないというのも事実です。