トリノの南の丘陵地帯のやや高台にあるブラ市ですが、まちの歴史は古く1000年はさかのぼれるようです。最初は修道士たちによって開かれ、やがて12世紀後半には自治都市となり、周辺から人口を吸収して、発展していきます。その後、ビスコンティ家の支配、1512年にはオルレアン朝の支配などを受けています。1552年には、サボイア家のエマヌエレ・フィルベルト公爵が奪取し、結局サボイア家の支配となりました。1760年にはカルロ・エマヌエレ3世が息子の領地とし、市の称号を与えて保護をしたことで、経済的文化的に発展したのです。
19世紀半ばから20世紀初めまでは皮革産業が栄え、100もの事業場がありましたが、第2次世界大戦後は急速に衰え、新たな自動車関連の合成繊維やプラスチックなどの工業がひろがることになりました。とはいえ、この間も、この地域が、農業生産を主とした地域であり続けたことは確かでした。トリノで社会事業制度を始めたコットレンゴ(1786-1842)の郷里でもあります。
さて、今日のブラを特徴づけているのは、「スローフード」です。ファーストフードの進出に対して、地域の農産品や料理、その歴史や伝統、その良さを多くの人に知ってもらい享受してもらおうという運動です。市としてもブドウや農業生産に力を入れていますが、1980年代に広がったスローフード運動のはじまったまちであり、その後も国際スローフード協会が本部を置いているところです。そしてこのブラ市は、スローフードの理念をまちづくりに広げた、世界16カ国114都市にネットが広がる、スローシティ・ネットワークの拠点の一つなのです。
人口5万人以下の小都市が地域の歴史風土・文化や地域資源を大切にし、人の暮らしに快適なまちをつくろうというわけです。またブラ市には、スローフード協会とピエモンテ州などが協力して設置した食科学大学があります。私が教えております同志社大学と教育研究の協力提携を結んでいます。私の在外研究の本来の目的は、この大学で「スローフード、スローライフ、スローシティ研究」ということになっていまして、話の展開が遅いのもこのテーマのせいでしょう。